[ スカイツリー10年、東武鉄道の「柱」に ] 東武鉄道が運営する「東京スカイツリー」(東京都墨田区)が
22日で開業10周年を迎える。電波塔として世界一の高さ634メートルを誇り、併設する
複合商業施設とともに東京の観光名所として定着した。商業施設を含めた来場者数は
累計で3億人を突破し、来場者らの鉄道利用を含む関連収入は通年にわたって業績に寄与。
同社が総額1430億円を投じた巨大プロジェクトは収益の柱の1つとなった。スカイツリーをはじめ、
併設の複合商業施設とオフィスタワーで構成する「スカイツリータウン」が、東武鉄道に与える
経営面での果実は少なくない。中心的な存在のスカイツリーは単年度で利益を上げられるように
なっており、20年以上とされる投資回収期間の短縮も期待される。同社は開業に合わせ、
平成24(2012)年に最寄り駅だった業平橋(なりひらばし)駅を「とうきょうスカイツリー駅」に改称。
もう1つの最寄り駅、押上駅を含め両駅を通る東武伊勢崎線の一部についても「東武スカイツリーライン」と
愛称を付け、同線のブランド化を図った。両駅の1日平均利用者数の合計は、開業前の23年度まで
8万人台が続いていたが翌24年度は10万人を超え、令和元年度は最多の約12万6000人に到達。
増加分の全てがスカイツリータウンの利用者とはいえないが、運輸事業全体の収入も
平成23年度(2046億円)と比べて100億円前後の増収が、新型コロナウイルス禍前の
令和元年度まで安定的に続いたことからも好影響なのは明らかだ。スカイツリータウンは
「レジャー」や「不動産」にまたがるビジネスだが、入場料やテナント代などを切り出した
直接的な事業収入は平成25年度の計325億円をピークに、コロナ禍まで200億円台後半が続いた。
この10年間の同社全体の連結売上高はおおむね5000億〜6000億円台で推移。
事業収入の割合は全体の1割にも満たないとはいえ、年間数百億円を稼ぐ事業に成長している。
令和2、3年度の事業収入はコロナ禍で150億円前後にとどまっているが、運輸事業の
増収分などと合わせて「(引き続き)経営を支えている」(広報担当者)という。
スカイツリー開業を契機に沿線開発が活発化しているといい、間接的な効果も合わせれば
「経営を支える」との表現も大げさではなさそうだ。特に若年層を中心としたイメージの向上には
貢献度が大きい。LINEリサーチは2年にスカイツリーと、先輩の東京タワー(同港区)で、
「どちらのタワー派か」を尋ねた意識調査(回答者約5200人)を実施。
ほぼ拮抗(きっこう)した結果ながら若年層ほど「スカイツリー派」の割合が多く、
国内でタワーといえば「スカイツリー」になる日も近い。地元の墨田区に限れば、
20代、30代の若年層の単身世帯を中心に人口が増加しており、区内の公示地価平均
(1平方メートル)も開業前まで下落傾向だったのが、この10年はほぼ上昇続きだ。
だが、東武沿線全体の知名度アップといった波及効果が十分に及んでいるかといえば、
そうとは言い難い。例えば沿線にある国内有数の観光地、日光・鬼怒川(栃木県日光市)では、
観光客数にスカイツリー効果と思われる動きは見えない。JPモルガン証券で運輸部門担当を
務める姫野良太シニアアナリストは、日帰りで行けるスカイツリー周辺と宿泊を伴う日光とでは
観光地としての強みが異なり、「一体的なプロモーションが難しい」と話す。さらに沿線全体の
事業資産について、住みやすいとされる街づくりで人気の東急沿線や、常に宿泊客数が上位の
箱根温泉(神奈川県箱根町)を持つ小田急沿線などに比べ、「どうしても地味に見える」と指摘。
その上で「街づくりなどで他の事業者と組み、じっくりと沿線のイメージを上げていくべきだ」と
話している。首都のシンボルとして定着し人を引き寄せるスカイツリー。その魅力を沿線ブランドの
向上にどう結びつけていくかが東武としての「次の10年」の課題だ。(産経 2022/5/17 13:33)