[ 「夢かなえたばかり、なぜ…」 ] 夢がかなって、これからだったのに−。アニメ制作会社
「京都アニメーション(京アニ)」のスタジオ放火事件で、社員の大野萌(めぐむ)さん(21)の
安否がまだ確認されていない。アルバイト代をためてアニメーター養成塾に通い、
念願の正社員になったばかり。そばで成長を見守ってきた祖父母は「本当に優しくて
一生懸命なめぐちゃんがなぜ」と声を詰まらせる。京都府木津川市の岡田和夫さん(69)と
一二美(ひふみ)さん(65)によると、孫娘の萌さんは同市内で家族4人暮らし。
「小さい時からいつも紙を持ち歩き、アニメの絵を描いていた」と振り返る。中学まで
ピアノも習い、高校では吹奏楽部に所属したが、「やっぱり絵を描きたい」と
地元の京アニを目指したという。高校時代にアルバイトでためた資金で卒業後、
京アニのアニメーター養成塾に1年間通塾。2年前の春から研修の形で京アニ本社で
働き始めた。当時は思うように課題をこなせないこともあり、徹夜で絵を描きながら
「描きたいけどつらい」と弱音を漏らすこともあった。しかし、努力を続けて昨年末ごろ
正社員に。萌さんは涙を流して喜び、念願のスタジオ勤務が決まった。「アニメや映画の
エンドロールで自分の名前が上に出てくるように頑張る」。そう話し、「ひ孫をみたい」と
いっても「結婚はまだだめ」と仕事に打ち込んでいた。最近公開された映画には
萌さんの絵も使われたといい、「小さいけど名前が載った」とうれしそうに報告してくれた。
そんな中、事件は起きた。萌さんは病院に搬送されておらず、駆けつけた家族が
行方不明者リストに名前を見つけた。19日朝には、遺体が一時安置されていた
警察学校を両親が訪れたが確認できず、今はDNA型鑑定の結果を待つ。
プロ野球・広島カープのファンである和夫さんに、カープのロゴなどがデザインされた
特別装丁の国語辞典をプレゼントしてくれた。一二美さんとは事件直前の13日に
一緒に外出してかき氷を食べ、ショッピングモールで髪留めを買ってくれた。
祖父母思いの萌さんは「手放したくないほどかわいかった」という。和夫さんは
「犯人には怒りしかない」と肩を震わせた。一二美さんは、萌さんの絵や辞典を何度もなでながら、
「まだ信じられない。戻れるものなら帰ってきてほしい」と声を絞り出した。(産経 2019.7.20 18:28)